だいぶ日が経ってしまいましたが、7月21日に開催されたウェブ解析士協会 九州・沖縄支部主催セミナーに参加してきました。
3部構成でどれも興味深かったのですが、株式会社ベイジの枌谷社長が登壇された「ベイジ自社サイトリニューアルの理想と現実」についてレポートしたいと思います。
リニューアルされたベイジのコーポレートサイト
今回取り上げられたサイトは、2022年11月にリニューアルされたベイジのコーポレートサイトです。
「コンテンツの化け物」というコンセプトが掲げられ、なんと20万字以上が新たに執筆されたという驚愕のリニューアル規模...。
リニューアル後はSNS上で話題になっており、リクトでもすぐに社内チャットで共有されました。
枌谷社長も見所をポストされていたので、読まれた方もいらっしゃると思います。
セミナーの流れ
大枠の流れとしては、枌谷社長の自己紹介からはじまり、リニューアルの前提となった要素(経営環境・経営スタイル・前回リニューアルからの会社の変化)、基本要件などのお話、そこから実際にサイトを見つつ解説・補足というような流れでした。
自分が担当したリニューアル案件との相違点
ベイジのリニューアルは、私がリクトに入社してから担当した案件とは前提から異なっていました。
私が担当した案件では、下記のような内容がリニューアルの目的としてよく挙げられます。
- 問い合わせ数を増やしたい
- 集客のためGoogle検索上位を目指し、SEO対策を行いたい
など。
しかし、ベイジの場合は違います。
- 元々リニューアルしなくても問い合わせ数には困っていなかった
- むしろ成約に繋がらないお問い合わせは減らしてホットリードだけ欲しい
- SEOはあまり意識していない(一般検索ユーザーは相性が良くなく、指名検索を重視)
そして、リニューアルの基本要件として挙げられていたのは以下の5つでした。
- コンテンツの更新・追加
- スタッフの露出
- 独自性の訴求強化
- 新ブランドの反映
- 発信情報の整理
前回のリニューアルから5年が経って会社や事業の状況が大きく変わり、「現在のベイジ」がウェブサイトに反映されていなかったということや、枌谷社長だけでなくスタッフの露出を増やし、ベイジ=枌谷社長というイメージを壊してリブランディングしていきたいということがリニューアルの目的となっているようでした。
個人的に印象深かったこと
実際のサイトを見つつ、枌谷社長に具体的なリニューアル点を解説していただきました。
全ては記載できませんが、個人的に印象深かったことをまとめます。
顧客にはおススメしない要素を取り入れたメインビジュアル
かなりの紆余曲折を経て、この形に落ち着いたそうですが「カルーセル」「英語のコピー」「CVポイントを置かない」など、普段ベイジが顧客にはほぼおススメしない要素を取り入れられています。
「これから顧客になるであろう閲覧者に、どのような内容をアピールすれば良い印象を持ってもらえるか」という視点で考えた結果
笑顔の顧客とスタッフの間に制作したWebサイトがある写真 =
撮影の相談も快諾してもらえるような良好な関係でプロジェクトを終えている証明
という考えに至り、このメインビジュアルに決定したそうです。
同業他社のサイトでこのようなメインビジュアルはあまり見ないので独自性もあり、顧客の満足に向き合うことを重視する会社らしさが伝わる切り口だなと感じました。
根拠を数字などで説明できない施策を実施している
顧客への提案では根拠が求められますが、自社のリニューアルでは根拠を明確に説明できない施策も実施したようです。
例えば、お問い合わせボタンの上のお問い合わせ数の表示。
ECサイトでは一定期間の購入数を表示していることがありますが、BtoBサイトでこのようにお問い合わせ数を表示しているサイトは見たことがありません。
「表示した方が良い」という明確な裏付けとなる根拠はなく、他がやっていないから思いつきで表示しているとおっしゃっていました。
「やらなくてもいいけど、やるデメリットも特にない。」
このような遊び心が随所に取り入れられているようでした。
面白いのはこういった要素が閲覧者の印象に残り、商談などで話題に上がるケースも増えたとのこと。ベイジの独自性に繋がり、ブランディングに寄与しているようです。
コンテンツが全て読まれるとは思っていない
20万字以上の膨大なコンテンツがあるベイジのサイト。
せっかく苦労して書いたので隅々まで読んでほしいのでは、と思っていましたが、そもそも全部読まれるとは考えていないそうです。
この量のコンテンツがあるコーポレートサイトは他にないので、圧倒的な差別化と、コンテンツ制作に強みを持つ会社としてのイメージ付けを狙っているようでした。
ただ、全て読む人が0人という訳ではなく少数いるようで、その人がベイジの求めるホットリードに繋がるという想定もあったそうです。
混乱を極めたリニューアル
ベイジは制作工程を100のタスクに分解してワークフロー化しており、サイトにも掲載されています。
実際のクライアントワークではこのワークフローに沿ってシステマティックに制作を進めるそうですが、自社のリニューアルではそうはいかず、長期にわたって混乱を極めたそうです。
開発期間は検討開始から含めると約2年。
メインビジュアルの方向性が決まるまで半年。
2度の開発中断、3度の公開日延長と、かなり苦労されたそうで、その理由としては下記の3点を挙げられていました。
- ウェブ制作会社だからこその、こだわりの強さ
- 予算や納期がないからこその、際限のない追及
- 突き詰めるとウォーターフォールにならない
紆余曲折の結果、公開までにかかった工数を計算すると6,000万円程のプロジェクトになってしまったようです...!
日々のクライアントワークを抱えつつ、有志スタッフで行う自社プロジェクトは、やはりどの会社も苦労するんだなと感じました。
リニューアルの結果と今後
最後に、気になるリニューアル後(2023年7月時点)の数字が共有されました。
現状としては
- 資料DL数→上がっている
- お問い合わせ数→減っている
- 商談数→ほぼ同じ
- 成約数→過去最高
- 売上/利益→過去最高
という結果に。
成約数と売上/利益は過去最高ですが、並行して営業改革をされた成果とも考えられ、リニューアルが失敗か成功かについては「分からない」けど「して良かったと感じる」とおっしゃっていました。
「失敗か成功かをジャッジすることに意味はなく、良質な顧客が増える可能性があることをこれからも継続的に行っていく」と捉えられていて、すでにいくつも具体的な改善案を挙げられていたので、今後どう変化していくのが楽しみです。
また、ベイジは今後、脱ウェブ制作会社を目指し、技術を駆使して顧客の成功に貢献するコンテンツ企業を目指していくそうです。まとめ
自分では担当したことのない前提条件や要件のリニューアルのお話でしたが、枌谷社長の語り口が軽妙で、すんなりと頭に入って楽しく受講することができました。
クライアントには提案しないようなセオリーから外れた要素を取り入れられるのも自社サイトリニューアルの醍醐味だなと感じましたし、それが独自性に繋がって顧客から「あの会社に相談しよう」と思い出してもらえる、ファン化に繋がる実例として面白いなと感じました。
今後自分が制作するサイトも、閲覧者の心に残るような、何か引っかかるような要素を考えて取り入れていきたいです。
また、脱ウェブ制作会社を宣言されたことも印象的でした。
ウェブ制作だけでは顧客に提供できるサービスに限界があるので、会社が持つ強みを拡張して対応できる範囲を広げていかないと、顧客に満足してもらうことは今後どんどん難しくなってくるんだろうなということを改めて認識しました。
これまでの範囲内で業務をこなすだけでなく、自社や自身の強みは何なのかを考え、クライアントの課題を解決できる提案を心がけていきたいです。